初めてケロシンストーブはスベア121Lであった。とある販売ルートに乗る前に強引にいただいた。
錆び付いたベコベコの缶を開けると、煤けて薄黒く所々に緑青が吹き出した大小の金属部品と3本の
鉄の棒が出てきた。アーチ状のパイプと太いパイプからなるバーナーのタンク接合部を咥え息を吹
き込むと燃料噴射部よりシューっと音がしている。バーナーのユニットはいけそうである。幸い部
品はそろっているようで程なく組み立ては完了した。空飛ぶ円盤状の燃料タンクにはバーナー接続
のネジ穴、ポンピング部、燃料キャップがあり、タンクに接続したバーナーにはプレヒート用のカ
ップがありバーナー部の気化チューブを暖める仕組みである。
これが古(イニシエ)より存在し数多(アマタ)のフィールドワーカーの生活を支えてきたキン
グオブストゥブの全貌である。
これが全貌であるのだが、無いのである。オンオフや火力調節のための部品が無いのである
。タンクに接続したバーナーユニットには燃料の流量をコントロールする部分は一切無い。
送られてきた燃料を気化し、ひたすら燃焼させる構造の様である。これでは火力調節どころか、
消火が出来ないではないか!何か秘密が有るに違いない。しばらく眺めていたが、全く解らない。
そのとき「そんな物どーしたんですか?懐かしいね」との声がして振り向くと、後光が強いせい
か人相までは確認できないがどうやら男性が立っていた。「さんざんアフリカで使いましたよ。」
との声でS川先生で有ることが解った。斯く斯く然然と云うと「これですよ。」と燃料キャップを指さし
「このネジで火力の調節をします。全開にすると消えます。」なんとキャップに調節ネジが有ったのだ。
これで調節するのか!と感心していると「なーに!使ってればすぐに慣れますよ。」との声を残し
、救いの神は去っていった。
そそくさと持ち帰り着火準備に移った。ただし、着火前にしておくことがある。20と数年間放置
されてきた物にいきなり仕事は危険である。なにせ高温高圧になる部分が有るストゥブである。
各所のチェックは必須である。バーナー部は詰まりがなさそうで有ったが、果たしてそれ以外はど
うであろうか。バーナー内部は見える範囲は真っ黒。タール状の物質が付着。薬湯での入浴決定。
次はタンク外観、煤けているが、穴はなさそうである。しかし、これだけ汚れているとチェック
もままならない。では内部はどうか。見える範囲に緑の粉末が付着。薬湯への入浴決定。次はポン
プをチェック。ポンプカップは革製で酷く劣化している模様。リュブリカントオイルを塗って見た
が復活はしなかった。ポンプカップの取り外しを試みたが、ナットを外している間に粉砕、文字ど
おり粉々になってしまった。ポンプ部も汚れが激しいので薬湯へ。何度か入浴を繰り返し、最後は
コンパウンドで磨きを入れて仕上げ。後はポンプカップを入手するだけである。そして入手からほ
ぼ9ヶ月後の深夜、ストゥブは接合部からの出火で煤だらけになりながら見事に着火したのであった。